講師: 中辻 博 先生 (認定NPO法人量子化学研究協会理事長、研究所所長;京都大学名誉教授 ) 研究所HP
担当: 神原 龍冬 (北海道大 量子化学研究室 D1)
担当 連絡先:sec1_at_ymsa.jp
紹介文
化学は理論的にはシュレーディンガー方程式を基礎方程式とする科学です。従来の量子化学は「シュレーディンガー方程式は解けない」という仮定の下に構築されてきました。しかし、2004年中辻によってその正確な解法が発見され、量子化学は大きく変貌することになります。シュレーディンガー方程式の解を、理論家はexact解と言いますが、そのexact解を求める理論の構築とその実際を講述します。分子構造や化学反応を分子の原子核に働く力の立場から直感的に理解する静電力理論、分子の基底状態、励起状態、イオン化・電子付加状態を正確に記述するSAC/SAC-CI理論を紹介し、これらの理論をすべてexact理論に発展させる理論を紹介します。
本講義では、まずexactな化学概念を与えるHellmannとFeynmanによる静電定理を紹介し、分子中の原子核に働く力が静電定理によって簡潔にあらわされ、極めて有用な化学概念を与えることを示します。とりわけこの静電定理はexact波動関数の必要条件であることから、計算化学的にも重要であることが分かります。次に、広く分子の基底状態・励起状態・イオン化・アニオン化状態をすべてバランスよく正確に記述するSAC/SAC-CI理論を紹介します。この理論体系はSACというcoupled-cluster法の理論を基に構築され、それ自身かなり高精度な波動関数理論ですが、exact理論との結合によって更に高精度な予言力を実現します。そして次に、exact波動関数理論そのものを紹介します。この理論の導入によって量子化学は始めてNewton方程式と肩を並べるexact theoryとなり、真の予言的サイエンスの仲間に入ることができ、将来が確かなものとなりました。この理論を中辻がすでに作り上げてきた上の2つの理論と連結することにより、理論的にも実用的にも優れた理論体系ができあがります。
講義では上の3つの主たる理論を紹介し、その結合がもたらす、優れた予言的量子化学の姿とその力を紹介します。内容は世界最高レベルですが、そのすべてが発案者自身による理論であり、理論自体も明析であることから、理解されやすいとおもいます。真の理論はすべてそのようなものであり、今後、理論構築を志向する方や、それを愛する方々の受講を歓迎します。
講義概要(予定)
目的:科学の基礎は正確な予言学とそれが持つ正確な直感的概念である。
静電力理論:原子核に働く力の立場で化学を観る
SAC/SAC-CI理論:分子の基底状態・励起状態・イオン化状態・電子付加状態をすべて与える正しい波動関数理論
化学の支配方程式・シュレーディンガー方程式を正確に解く理論:自由完員関数理論
綜合理論;自由完員関数理論と上記理論の結合によるexact理論
担当: 神原 龍冬(北海道大学)
シュレーディンガー方程式を解くことで、あらゆる分子のさまざまな物性を予測することが可能になります。しかし、この方程式の解析解が得られるのは水素様原子などのごく限られた系に限られており、実際の分子に適用するためには近似手法が不可欠といわれてきました。これについてはディラックですらも「量子力学の基本方程式は確立されたが、実際の系を計算するためには近似手法の発展が不可欠である」と述べ、それ以上の探究は放棄しています。
本分科会では、「シュレーディンガー方程式を正確に解く」という問題に対して常に第一線で研究を続けられてきた中辻博先生をお呼びし、exactな波動関数を構築する試みとそこから導かれる化学概念について講義を行っていただきます。
シュレーディンガー方程式の正確な解法と新しい量子化学について、夏の学校で共に学びませんか!
皆様のご参加をお待ちしています。