講師:渡邉 昇 先生(東北大学 多元物質科学研究所 准教授)研究室HP
担当:小柴 拓実(東北大学 D1)
担当連絡先:sec5(at)ymsa.jp
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分子が示す性質の多くはその内部を運動する電子の振る舞いに強く依存しています。この電子挙動をとらえるべく、様々な分光法が開発されてきました。中でも分子による電子散乱を探針とした電子散乱分光は、レーザー分光とは異なる独自の進化を遂げています。電子-分子衝突では、標的分子へのエネルギー移行だけでなく運動量の授受も生じるため、状態間のエネルギー差に加え、標的電子の運動量という新たな視点を我々に齎します。分子軌道を運動量空間で可視化する電子運動量分光は、この特質を利用した一例といえるでしょう。また、電子励起を伴う散乱過程が示す移行運動量依存性からは、電子励起状態に関する豊富な情報が得られます。
本講義では、電子散乱分光の基礎理論や実験手法を学ぶとともに、その応用例について紹介します。伝統的な分光法だけでなく、荷電粒子の画像計測や複数粒子の同時計測技術を駆使した近年における実験手法の発展や、測定結果の解析に用いる量子化学理論についても概説します。
(1):高速電子散乱の鳥瞰的理解:ベーテ理論
(2):電子散乱分光で用いる計測技術
(3):電子線コンプトン散乱と電子運動量分光
(4):分子軌道イメージング:分子軌道を観測するとはどういうことか?
(5):電子エネルギー損失分光の分子科学への応用と電子励起状態理論
(6):原子核運動と電子運動との相関
(7):電子散乱の立体ダイナミクス:電子-イオン同時計測
(8):X線散乱との関係 散乱分光でみる電子相関効果
担当:小柴 拓実(東北大学 D1)
第五分科会では東北大学の渡邉昇先生をお招きし、電子との相互作用によって分子の性質を捉える電子散乱分光について、その基礎から最先端の研究まで講義していただきます。
分子の構造や物性、反応性などの性質は、分子内の電子挙動に支配されています。この電子の振る舞いを解明することは、分子の多種多様な性質を理解するための基盤をなす重要な課題です。現代の分子科学分野では、光と物質の相互作用に基づくレーザー分光法が最も標準的な分析手法として応用されています。これに対して、光の代わりに電子をプローブとして用いる電子散乱分光は、全く新しい観点から分子の性質を捉えることが出来ます。光学遷移とは異なる選択律の発現に加え、分子内電子の運動量という新しい物理量の観測をも可能とします。この運動量分布はフーリエ変換により空間分布と紐づけられ、これによって電子波動関数の可視化が達成されます。電子散乱分光は従来のレーザー分光ではアクセスできなかった新しい分子科学を拓くものとして注目されています。
講義では、電子散乱分光の土台である、分子と電子の相互作用の基礎理論から講義していただきます。電子散乱という言葉に聞き馴染みのない方が多いかと思いますので、初学者でも理解できますように一から解説をお願いしました。さらに、電子運動量分光などの実際の研究例を通じて、新しい分子科学の視点に触れていただきます。
夏の学校という5日間に渡る集中講義は新しい分野を学ぶ恰好の機会です。様々なバックグラウンドを持つ方の参加をお待ちしております。